最適な役員報酬額とは
さて、今回は役員報酬の決定について考えてみます。
税負担の見地からシミュレーションをすれば良いのかというと、事はそんなに単純ではありません。
複雑かつ難解なテーマですが、構成要素を一つ一つかみ砕きながら全体像を掴んでいきましょう。
法人税 vs 所得税
法人税の計算を限りなく単純化すると下記の算式となります。
利 益 = 収入 - 経費
役員報酬は経費の一部ですので、役員報酬額を増やすと法人税は減り、役員報酬額を減らすと法人税は増えることになります。
これに対して、社長個人に対する税金である所得税は完全に逆であり、役員報酬を増やすと所得税は増え、役員報酬を減らすと所得税は減るわけです。
所得税は5%から最大45%の超過累進課税であるのに対し、法人税等は約35%(中小法人については、利益800万円までの部分は約23%)での課税です。
このような税率の差によって生じる税負担の差額から所得税と法人税の合計額が最少となる役員報酬額をみつける、というのが一般的なアプローチとなります。
ここで問題になるのは、役員報酬の決定時期です。役員報酬が法人税法上の経費として認められるためには「定期同額給与※」に該当する必要があります。
※事前確定届出給与等については、ここでは割愛します。
この縛りにより、役員報酬は向こう1年間の支払額を予め決定する必要があるのです。
せっかく緻密にシミュレートしても、肝心の法人の利益が想定と異なっていた場合には、全く意味のないものとなってしまいます。
相続税及び贈与税(自社株の評価額)
上述のとおり、所得税対策として役員報酬を下げると、法人の利益が増えます。
これは単に法人税の増額要因だけに留まらず、相続税や贈与税にも密接に関連してきます。
法人の株式の価値を算定するうえで重要な指標である「純資産」も増加するからです。
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法人の利益が増え、法人税が増加
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法人の純資産が増え、株式の価値が増加 New!!
将来的に次期後継者に社長が保有する株式を承継する(事業承継)際、株式を贈与することがあります。
この贈与には贈与税という税金が課税されます(一定の非課税枠あり)。
また、死亡により相続人に財産を引き継ぐ際には相続税の対象となります。
では、役員報酬を引き上げて会社の純資産を減少させれば万事解決、という訳にはいきません。
引き上げた分の役員報酬が社長の個人財産として残っていれば、結局は相続税の課税対象となるからです。
社会保険料
社会保険料(健康保険料及び厚生年金保険料)は役員報酬の増減に相関します。
社会保険料は会社と個人で折半ではありますが、オーナー社長の場合には会社負担額も加味した上でのシミュレーションが必要でしょう。
年金については、保険料負担額が将来受け取る金額に影響するので、単純に無駄ではないと考える方もいるようです。
今回のテーマではありませんので詳述はしませんが、年金については財源不足であることは火を見るよりも明らかな状況です。
よって、負担額を減らしたいと思うのが通常かと思います。
それで、結局適正な役員報酬額とは?
ここまでお読みいただいた方であれば理解していただけるでしょう。
適正な役員報酬額とは、上記の要素について一つ一つ熟慮した上で決定するものであり、しかも、その中には、事業承継や年金への考え方など社長の想いが強く関連するものもあります。
つまり、これこそが適正な役員報酬額である、という定義をすることは結局のところ不可能なのです。
社長一人で上記の要素を纏め上げるのは困難でしょう。そのような時の為に顧問税理士がいるのです。忌憚のない意見を交わしながら、あなたにとっての「最適な役員報酬額」を導き出してください。