「黒字→株価上昇→承継で損」。この一見それっぽい理屈は、本当に正しいのでしょうか。株価が税負担に影響するのは事実です。しかし、利益が積み上がる会社では同時に、信用・資金余力と選択肢が増えていきます。結果として、承継時の納税に耐える体力が生まれ、経営者保証外しの条件も整いやすくなる。つまり「株価上昇は敵」ではなく、設計次第で承継の味方に変わります。以下、そのロジックを解説していきます。


「納税した方がお金は残る」の復習

「税金を払うくらいなら使ったほうが得だ」。決算期末にしばしば顔を出す発想ですが、これは“税額”しか見ておらず、“キャッシュ”を見落としています。ベタな確認から始めましょう。

前提:利益100万円、実効税率30%。
選択肢Aは「納税」、選択肢Bは「節税のためだけの支出(不要投資100万円)」です。

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前提条件:利益100万円、実効税率30%

Aは30万円出ていきますが、70万円が会社に残る。Bは税金こそゼロでも、現金は丸ごと100万円出ていく。翌期の運転資金や銀行評価を考えると、どちらが“強い”かは明らかです。税額だけを最小化しても、短期つなぎや金利上昇、信用の目減りといった総コストが膨らむなら本末転倒です。キャッシュと信用を同時に増やす意思決定こそ、承継を楽にするのです。


株価上昇は“承継の敵”ではない

ここから本題に入ります。「利益を積むと株価が上がり、承継で不利になるのでは?」という不安。結論から言えば、設計が伴っていれば全く問題ありません。株価が上がるとは、稼ぐ力があるというサインでもあります。稼げる会社は、役員報酬を適正に払い、退職金の原資を前倒しで積み、納税資金を事前に確保できます。さらに、継続黒字と納税実績は格付・枠・金利に効き、資金調達の選択肢が広がります。

承継で本当に怖いのは「株価そのもの」ではありません。一時金(納税・退職金)に耐える資金体力と、金融機関の協力がない状態です。黒字・納税でその土台が整えば、株価上昇はむしろ承継を軽くする方向に作用します。


株価評価は「全体像と設計ポイント」だけ押さえる

中小同族会社の評価は、おおむね利益・配当・純資産で決まります(方式により重みは異なります)。利益を積めば株価は上がりやすい。だからこそ重要なのは、上がり方の設計です。たとえば、使途のない内部留保や不要資産は承継に寄与しないのに評価だけを押し上げがち。反対に、報酬・退職金・配当の適正化、資産のスリム化、投資と返済の計画化は、評価とキャッシュの“質”を良い方向に整えます。細かな理論よりも、「経営で動かせるポイント」に集中するのが実務的です。


承継を“楽”にする5つのポイント

  1. 役員報酬の最適化
    手取り・社会保険料・法人の資金余力の三点を考慮しながら設計します。取り過ぎれば内部留保が痩せ、取りなさ過ぎれば評価が過大に。年次で見直すのが前提となります。

  2. 役員退職金の設計
    功績倍率・在任年数・支給時期・原資(内部留保/外部積立)を表で見える化。承継の数年前から原資を“意図して”作ると、当日の衝撃が小さくなります。

  3. 内部留保と配当のバランス
    内部留保には具体的な使途(投資・返済・退職金・納税)を紐づける。配当は株主期待と信用を踏まえた方針化でブレを小さく。

  4. 借入の設計(長短の整合)
    運転資金は短期、設備投資は長期。返済表とリファイナンス計画を前倒しで。継続黒字・納税は、枠・金利・期間の交渉力を底上げします。

  5. 不要資産の整理
    本業に効かない不動産・遊休資産・過大な有価証券は、株価だけを押し上げる典型。承継前にスリム化して、評価の“質”を整えます。


経営者保証を外す—承継の難所を越える実務

承継で重くのしかかるのが経営者保証です。外れない限り、後継者の心理的・資金的負担は続きます。ここは腰を据えて、黒字・納税・見える化の三点セットを“段取り”として積み上げていきましょう。

まずは継続黒字と納税実績。金融機関が見ているのは「この会社は自然体で利益を出し続けられるか」という継続性です。ここに月次試算表の早期化を重ねます。締めが遅く誤差が多い会社は、管理力が弱いと見なされがち。遅くとも20営業日以内を一つの目安に、売上認識、棚卸、未払・前受の締めルールを整備し、例外処理は文書化しておきましょう。スピードと精度が、金融の安心感をつくります。

次は資金繰りの見える化。四半期の面談に資金繰り表を必ず添えて、借入・返済・更新・リファイナンスの予定を言葉で説明する。ここに投資計画や人員計画を重ねると、単なる「数字の羅列」から、筋の通った「事業の絵」になります。金融側の質問は、やがて「条件交渉ベース」に変わっていきます。

さらに、資産の質を整えます。不要資産や、私的流用に見える支出は、保証外しの議論を一気に不利にします。本業に資する資産構成に寄せ、関連当事者取引は条件を明文化し準市場価格で行う。ここは“誤解を生ませない”ための設計です。

そして対話の設計。定量情報(決算・月次・資金繰り)と定性情報(戦略・ガバナンス・後継体制)を定期的に提出ことで、サプライズを減らします。「困ったらお願いする」ではなく、「前倒しで共有し、合意を積み上げる」。これが、限度額・金利・担保・保証の四点を改善し、承継時の資金手当てを通しやすくする最短路です。経営者保証外しは情緒の問題ではなく、プロジェクトマネジメントの問題なのです。

まとめ

根本的な問いは「今年の税金をいかに下げるか」ではなく、「長期的視点で承継が楽になる形に資金と信用を積み上げられているか」です。納税を恐れず、上がり方を設計し、金融機関との対話を重ねることが大切です。株価は敵ではありません。設計された株価上昇は、承継を軽くし、会社を強くするのです。

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